東能代から五能線に入り、日本海沿いを大きく回って、青森県の川部へ。
五能線の東能代―川部間は約147km。
地図で見ると、それほど極端に長い距離には見えません。
でも五能線は、日本海の地形に沿うように大きく回り込みます。
だから時間がかかる。
そこがいいのです。
急いで目的地へ着くための鉄道ではなく、
「時間を使うことそのもの」が旅になる。
そして面白いことに、川部まで行ったあと、奥羽本線へ乗り換えると、五能線を逆方向に戻るより、かなり短い時間で東能代方面へ戻ることができます。
私はこの形が好きでした。
行きは五能線でたっぷり時間を使う。
帰りは奥羽本線で戻る。
同じ場所を往復するのではない。
一つの大きな円を描くように旅をする。
私が能代で活動していた時に生まれた《能五(のうご)ロゴ》も、その旅を形にしたものです。
左下の丸が五能線の起点・東能代。
右上の丸が終点・川部。
その二つを結ぶ五能線。
そして中央を結ぶ実線が奥羽本線。
つまり、起点と終点だけではなく、
「帰り道」までロゴの中に入っています。
旅は、終点に着いたら終わりではありません。
帰ってくるところまでが旅です。
五能線といえば、やはりリゾートしらかみです。
日本海の絶景。
十二湖。
千畳敷。
深浦。
鰺ケ沢。
沿線の文化を紹介する車内イベント。
地域の食。
そして地酒。
もちろん、どれも大きな魅力です。
でも、私が最近強く感じているリゾートしらかみの価値は、少し別のところにもあります。
全国の観光列車が、特急化したり、豪華列車化したり、特別な旅行商品になっていく中で、リゾートしらかみは今も快速列車の指定席として、長い時間を楽しめる貴重な列車です。
秋田から青森まで乗れば、およそ5時間。
「5時間も列車に乗るの?」
と思う人もいるでしょう。
私は逆です。
5時間も、何もしなくていい。
スマートフォンから目を離す。
窓の外を見る。
本を読む。
少し眠る。
駅弁を食べる。
地酒を飲む。
昔のことを思い出す。
これからのことを考える。
そして、本当に何もせず、ぼんやりする。
日常では、5時間も何もしないことは案外難しいものです。
でも列車なら、それが許されます。
私にとってリゾートしらかみは、絶景観光列車であると同時に、
5時間かけて日常から少し離れ、自分を見つめ直す「リトリート列車」
でもあります。
今回、柳町で《旅と暮らしの交差点》をつくろうとしている株式会社ねこの手能代の加賀谷さくらさん。
私はかなり筋金入りの鉄道ファンですが、さくらさんは少し違います。
彼女は、
列車に乗って、お酒を飲むのが大好きです。
それもまた、鉄道旅の素晴らしい楽しみ方だと思います。
目的地へ早く着くだけなら、ほかの交通手段が便利な場合もあります。
でも、列車に揺られながら地酒を飲み、窓の外を眺め、誰かと話をする。
その時間そのものが旅になる。
2026年5月、私たちはリゾートしらかみの車内で、これからの能代での連携について話しました。
その時、テーブルの上には、五能線全線開通90周年を記念してつくった《能五ロゴ》のアクリルキーホルダーもありました。
その頃はまだ、これが今回のクラウドファンディングのリターンになるとは決まっていませんでした。
でも今振り返ると、この列車の中で話したことが、少しずつ今の形になってきたのだと思います。
そして2026年。
五能線90周年の年に、能代駅も大きく変わろうとしています。
JR秋田支社の「えきのわプロジェクト」第二弾として、能代駅の改良工事が進められています。
設計・監修に関わるのは、能代出身の建築家・納谷新さん率いる株式会社三六〇度。
築86年の木造駅舎の構造を生かしながら、
新しくも懐かしい、木都・能代らしい空間
へ生まれ変わろうとしています。
待合室とコンコースの一体化。
NewDays KIOSKの移転。
そして、使われなくなった旧駅事務室などについても、地域事業者との利活用が検討されています。
私は、この動きをとても楽しみにしています。
駅は、鉄道の玄関です。
では、能代駅が魅力的になるなら、柳町に別の旅の拠点など必要ないのでしょうか。
私は、むしろ逆だと思っています。
《旅と暮らしの交差点》は、能代駅から徒歩約10分。
すぐ近くには能代バスケミュージアムがあり、国登録有形文化財「旧料亭金勇」や買い物のできる場所(イオン能代店)もあります。
冬、雪が積もって徒歩10分が長く感じる季節でも、能代駅前からコミュニティバスが使えます。
バス停は施設のすぐ近くです。
だから私は、この場所を能代駅や観光案内所と競争する施設にしたいとは思っていません。
役割が違えばいい。
駅では列車を待つ。
観光案内所では地域の情報を聞く。
そして、
「せっかく能代まで来たのだから、もう少し町を歩いてみよう」
と思った人が柳町へ寄る。
そこに五能線の本がある。
昔のパンフレットがある。
リゾートしらかみの資料やグッズがある。
地域の人がいる。
旅の話ができる。
次の旅程を考えられる。
Wi-Fiや電源も使える。
仕事をしてもいい。
そんな場所があっていいと思っています。
私はこれまで、五能線やリゾートしらかみに関する本、パンフレット、資料、グッズをかなり集めてきました。
全部が貴重な鉄道資料というわけではありません。
旅行パンフレット。
昔の印刷物。
鉄道本。
観光資料。
西村京太郎作品。
自分がつくったもの。
イベントでもらったもの。
でも、そういうものを一か所に置いて眺めていると、鉄道の歴史だけではなく、
「その時代、人がこの路線をどう旅していたのか」
が見えてきます。
それらの一部を柳町へ持っていき、小さな「私設五能線資料室」のような場所にできないかとも考えています。
立派な鉄道博物館をつくるわけではありません。
むしろ、
「このパンフレット懐かしい」
「自分もこの列車に乗った」
「次はここへ行ってみたい」
そんな会話が生まれれば十分です。
私は鉄道ファンですが、この場所を「私が欲しい鉄道施設」にするつもりはありません。
せっかくなら、実際に五能線に乗っている人、これから乗ろうとしている人の声を聞きたい。
例えば、
・五能線関連の書籍
・旅人が自由に書ける「五能線旅ノート」
・Wi-Fi、電源、充電 ・冬の運休時に旅程を組み直せる情報
・バスやタクシーの情報 ・鉄道ファンの小さな交流会
・乗車報告会
・沿線のお菓子や飲み物
・五能線グッズ
ほかにもあると思います。
大きな施設ではすぐにはできないことでも、民間の小さな場所だから試せることがあります。
「能代にこんな場所があったら寄ってみたい」
というアイデアがあれば、ぜひ教えてください。
すでに五能線やリゾートしらかみに乗ったことのある人なら、それぞれに思い出があるはずです。
窓いっぱいに突然現れた日本海。
千畳敷で降りた時の風。
車内イベント。
駅弁。
地酒。
誰かと話したこと。
あるいは、誰とも話さず、長い時間ただ窓を眺めていたこと。
旅の記憶は、観光地の名前だけでは残りません。
むしろ、
「その時、自分は何を考えていたのか」
の方が、何年も経ってから突然戻ってくることがあります。
五能線には、そういう旅が似合います。
一方、
「五能線にはまだ乗ったことがない」
「リゾートしらかみに一度乗ってみたい」
という人も多いと思います。
でも初めてなら、
どこから乗るのか。
どちら側の席がいいのか。
何号に乗ればいいのか。
どこで途中下車するのか。
千畳敷では本当に降りられるのか。
五能線を最後まで乗ったあと、どう戻ってくるのか。
分からないことも多い。
そんな「いつか」を、少しだけ具体的な旅に変えるために、私は以前から五能線・リゾートしらかみのオンラインツアーも行っています。
乗る前の「予習」に。乗った後の「追体験」に。
今回のクラウドファンディングでは、
「五能線・リゾートしらかみ オンラインツアー」
も5,000円の地域間連携リターンとして用意しています。
これは今回のクラウドファンディングのために急につくったものではありません。
これまで実際にHISや、アクティビティジャパン、aini等で開催してきたオンライン体験です。
五能線の乗り方。
リゾートしらかみの座席。
絶景区間。
千畳敷。
車内イベント。
駅や沿線。
そして、五能線と奥羽本線を組み合わせた旅。
そんなことを、写真や資料を見ながら一緒にたどります。
これから乗る人には旅の予習として。
一度乗った人には旅の追体験として。
そして、すぐに秋田へ行けない人には、まず画面の中から五能線へ。
旅は、列車のドアが開いた瞬間に始まるのではありません。
「いつか乗りたい」と思った時から、もう旅は始まっている。
私はそう思っています。
※クラウドファンディングのリターンとして参加される場合は、ainiからではなくCAMPFIREのリターンをお選びください。
もう一つ、今回の地域間連携リターンとして用意しているのが、
五能線全線開通90周年記念《能五ロゴ》アクリルキーホルダー
です。
黒、青、緑の3色。
切符をイメージした形に、2026年と《能五ロゴ》を刻んでいます。
手のひらに収まる小さなものです。
でも、《能五ロゴ》には、
東能代の起点。
川部の終点。
五能線。
そして奥羽本線の帰り道。
一日の鉄道旅が入っています。
今回のアクリルキーホルダーを含んだクラファンのリターンは、
能代・柳町に新しい旅の拠点をつくるための5,000円の支援です。
そして、その支援に参加していただいた記念として、
「五能線90周年の2026年に、自分もこの挑戦に関わった」
という小さな証をお届けします。
私は今後、このキーホルダーを通信販売の主力商品にするつもりはありません。
現地やイベントなど、
五能線の物語と一緒に届けるもの
にしたいと考えています。
だからこそ、今回この形で手にしていただくことにも意味があると思っています。
実は、このページで書いてきた、
起点・東能代。
終点・川部。
奥羽本線の帰り道。
能五ロゴ。
千畳敷の風。
そして「また戻ってくる」という感覚。
これらを一つの物語にした作品があります。
『五能線 十年後の約束』
RailfanGuide文庫として書いた短編です。
物語では、東能代駅の0km0mから五能線の旅が始まります。
能代。
リゾートしらかみ。
千畳敷。
川部。
そこから奥羽本線で戻ってくる。
そして10年後、主人公はもう一度同じ五能線をたどります。
作品の中で私は、
「千畳敷 風が主役」
という短い言葉を書きました。
10年後、同じ場所へ戻ってきた時には、
「10年後 同じ風」
と書きます。
もちろん、本当に同じ風など吹きません。
自分自身も10年前とは違う。
だからこそ、同じ場所へ戻る意味がある。
そんな話です。
【『五能線 十年後の約束』を読む】
そして、能代駅1番線飾り窓には「2036年7月30日」があります。
今回、ぜひこの写真を載せたいと思っています。
能代駅に掲げられている、
「五能線乗車記念板」
そこに書かれている日付は、
2036年7月30日
五能線全線開通100周年の日です。
まだ10年先です。
2026年の今、私たちは90周年を迎えたばかりです。
なのに、そこにはもう100周年の日付が刻まれている。
私は、この板が好きです。
まだ来ていない日を、先に祝っている。
そこまで五能線が走っていることを、先に信じている。
(五能線の繁栄を願って、私が2021年に能代観光協会に寄贈した全線開通100周年先取り秋田杉記念板)
私の小説『五能線 十年後の約束』にも、この考え方を重ねています。作中では、能代駅の展示ケースや100周年の記念板が、「今の旅」と「まだ来ていない10年後」をつなぐ存在として登場します。
2026年。
五能線全線開通90周年。
能代駅も変わろうとしています。
そして柳町では、新しい民間の旅の拠点をつくろうとしています。
10年後。
2036年7月30日。
五能線が100周年を迎える時に、この柳町の場所がどうなっているのか。
私は分かりません。
列車も変わっているかもしれない。
駅も変わっているかもしれない。
自分自身も、今とは違っているでしょう。
でも、
「90周年の頃、能代にこんな場所ができたよね」
と言える場所が残っていたら面白い。
そして、またリゾートしらかみに乗る。
5時間くらい、何もしない。
海を見る。
地酒を飲む。
昔のことを思い出す。
能代で降りる。
柳町まで歩く。
そこに、10年前に置いた本や資料が残っている。
そんな未来になればいいと思っています。
五能線に乗った人も。
いつか乗る人も。
一度乗った人には、
もう一度戻ってくる理由を。
まだ乗ったことがない人には、
いつか訪れる理由を。
《旅と暮らしの交差点》が、その一つになればと思っています。
2026年8月20日~ 9月25日まで、株式会社ねこの手能代が、柳町の《旅と暮らしの交差点》づくりに向けてクラウドファンディングに挑戦しています。
遠方から参加できる地域間連携リターンとして、
5,000円
五能線全線開通90周年記念 アクリルキーホルダー
5,000円
五能線・リゾートしらかみ オンラインツアー
も用意されています。
五能線の旅をすでに知っている方も。
いつか乗ってみたい方も。
まず、この挑戦を知っていただけたらうれしく思います。
詳細は以下をご覧ください。
2026年8月20日 「成田空港リトリート合同会社と株式会社ねこの手能代の地域間連携パートナー」PR TIMESニュースリリース